10年勤めたメガバンクを飛び出し、マンションの1室にあるスタートアップに入社。同期入社はボスコン出身のエリートや東大卒海外MBAから外銀のIBD出身などの錚々たるメンバー。その中で僕が勝ることができた、たった一つのことをお伝えます。
超絶優秀な同期入社組
3年前に参加したベンチャーは超絶優秀なメンバーの揃う会社でした。
社長も東大から外銀、同期入社は国家公務員からBCG(ボストンコンサルティンググループ)にいた人間、東大理系卒で海外MBAを持ち外銀IBDで活躍していた人間、など。
ぶっちゃけ「メガバンク」なんてブランドは相当格下でした。
最初はそんなメンバーとうまくやっていけるのか、、、圧倒的にボロクソにされて、プライドもなにもズタズタになるのではないか、、、そんな不安を持ちながらのスタートでした。。。
実際に仕事を始めてみると、まぁこれらのメンバーは本当に優秀です。
頭もいい、手も早い、交渉力もあり、推進力もある。英語もできるし、おまけに人間的にも尊敬できることが多い。
天は2物を与えず、とか言いますが、3も4も持っているメンバーです。
普通に法人営業でも勝てる気がしないですし、発言も鋭いし、なんで同じ人間なのにこんなに違うのだろう。。。
と思ったこともありました。
でもいいやつだから憎めない、というか好きだし。
もっと役に立ちたい、活躍したいと思いながら過ごす日々でした。
資金調達で差が少し見えた
スタートアップベンチャーらしく、資金調達が必要なフェーズが訪れました。
もちろん外銀IBD出身の人間も事業計画を作ったりするのは得意です。精緻な計画を作っていきます。
しかし、スタートアップベンチャーの調達に必要なのは、精緻な事業計画よりも、この人たちなら信頼できそうだ、という直感です。
エンジェル投資は経営者で決まります。
シリーズAはチームで決まります。
シリーズBはスケール。
シリーズCは顧客と確信です。
なので、最初のうちに必要になるのは、経営者との相性や「いいチーム」と思わせられるかどうか、のプレゼン力なんですよね。
この点でIBD出身の人間はある程度のポジションになるまでひたすら財務モデルを回したり、デューデリ資料の精査をしたりピッチブック(上司がプレゼンをするための資料)を作ったりと下働きをさせられます。
IBDにせっかく行ったなら5年〜8年くらいちゃんとやって、顧客と対等にやり合えるような経験を積んでおかないとこの辺りの力は育たないのだな、と思いました。
僕は社長との付き合いの長さ、エクイティ、デッド、メザニン共に銀行で少しかじっていたこと、学生向けに常にプレゼンやファシリテートが必要になる新卒採用・インターン運営などの経験があったので、調達で投資家と話をするには当時の会社では最適な人間だったと思います。
スキル的に少し「違い」を感じることができました。
しかし、これはあくまで経験やスキルがはまっただけで、「社長の右腕として信頼された」わけではないと思います。
外銀外コン出身者にて勝てるたった一つのこと
では、もっとも社長や社内からの信頼を勝ち取ったのはいつか。
事業はそれなりに県庁に行っていたものの、思ったほどの成果を上げられていない時、普段強気な社長がぽろっと弱音を吐いた時がありました。
「今やっている事業は世の中を変える事業と信じているが、顧客に理解されるのに時間がかかり収益性がよくない。もっとわかりやすい事業に一時的に転換した方がいいかな」
というもの。
僕の回答は以下の通りです。(少しカッコよくしてますが、趣旨はこんな感じ)
「この会社に集まっている人材は、どこに行っても生きている人間ばかり。みんな社長の描く世界を実現するためにここに集まったんです。その世界が遠ざかるのであれば、ここにいる理由がなくなります。厳しい状況であることはよく理解しています。しかし、社員の暮らしを守らないととか、普通の社長と同じ考えは入りません。この会社において社員を大切にする、ということは描いた世界の実現に向けて最短距離で突っ走ることです」
結構腹の据わったこと言ったもんだなと今でも思いますw
これこそが、元銀行員である僕ができて、外コン外銀出身の人間にはできないことなんです。
銀行で胸を張れる仕事ができたからこそできること
外コン外銀の人間と銀行員の違いは何か。
それは、「経営者」を見ているかどうかです。
外コン外銀の場合は基本的に大企業との付き合いばかりです。その場合オーナー経営者と仕事をする機会なんてほとんど訪れませんよね。コンサル出身者は経営人材とよく言われます。確かに戦略策定、マーケティングなど、優れた能力を身につけることができます。仕事の進め方、段取り、誰とでもコミュニケーションを取れる能力、段違いに高いです。
一方で、ビジネスで経営者と関わることは稀なので、経営者の気持ちを理解する、という経験はないわけです。
僕は幸いにも銀行員2年目の時から、尊敬する経営者の方と深いリレーションを築き、役に立つ経験を銀行員時代にすることができました。自分の全てを投げ打ってでも会社を守ろうとした社長。この会社のストーリー、その人の「生き様」を直に感じた時には涙が止まらなくなりました。それほど、社長という人の覚悟、何かを決めた人間の強さを感じることができたのです。
経営で最も大切なことは、やり遂げるという覚悟を決めることだと。戦略とかマーケット云々でない、ということを肌感覚で学んでいたのです。
だからこそ、社長に「覚悟を決めましょう」という話ができます。
転職、退職を考える人こそ「本当の銀行の経験」をするべき
先日、同じく銀行を辞めた後輩と飲んでいる時に言われました。
「あなたは銀行で本当にいい経験をしている。羨ましい。僕は4年間営業をやったが、そんな経営者と深くつながれるような経験はできなかった。だからこそ、もっと意義のある営業がしたいと転職をしたんです。そんな経験をしていたら銀行を辞めなかったと思う」
僕はお客さんにも上司にも同期にも恵まれていたと思います。
そのおかげでたくさんの意義深い、思い出に残るお客さんとの出会いがありました。
「自分の人生をかけて挑戦する人を支えたい」
そう思って銀行に入りましたが、まさにそのままの仕事を体現することができたのです。
後輩は残念ながら、顧客との深い関係を作ることができなかったと言っていました。
しかし、僕は思うんです。
せっかく銀行に入ったからには、顧客企業、経営者に深くコミットして何かしらか役に立つ。
その経験があるからこそ、ベンチャーで経営者と対等に渡り合い、信頼されるのだと。
戦略コンサルや外銀のような猛烈に仕事ができる必要はありません。
経営者は孤独です。会社の中で弱音を吐こうものなら、社員に不安がられます。
だからこそ、信頼できる人間にしか本音は話せない。
その存在になれるのは、銀行で「本当の銀行の仕事」を知っている人間だと思うのです。
銀行からの転職や退職を考える前に、是非、自分は「これをやった」「ここまで顧客の役に立った」という経験をしてから外に出ましょう。
せっかく、そんな素晴らしい経験のできる環境にいるのに、それを経験せずに立場を捨てるなんて勿体なさすぎます。
是非、歯を食いしばって頑張って、それからその先のことを考えましょう。
一人でも多くのバンカーが「本当の銀行の仕事」ができるよう願っています。